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高橋良輔インタビューその2

Q制作スタッフの方々を選ばれた理由をお聞かせください。
高橋まず『FLAG』の監督、寺田君。彼を選んだというよりは……現場のアンサー・スタジオのエースが寺田君なんです。だから必然的に寺田君、ということもあるのですが、実は彼とは、つきあいが長いんです。私の初監督作品は『ゼロテスター』(※1)というものですが、たぶん彼のTVシリーズの初演出も『ゼロテスター』なんですね。僕が作った作品のほぼ全部、要所要所の絵コンテマンで付き合ってもらってます。アンサー・スタジオのエースだったということは僕にとっては「結果」でした。アンサー・スタジオの方は「寺田でどうですか? うちのエースですから」という風に、僕の気持ちとスタジオの事情が一緒だったということです。

Qそれでは、実際に制作を担当しているアンサー・スタジオになった経緯というのは?
高橋以前はディズニー作品を作っていた会社なんですね。主催者である徳永さんとは前から知り合いで、アンサー・スタジオがこれから国内物を作る、という話は聞いていました。この作品は、糸が切れたらどこかにいってしまうような“凧”みたいなところがあるんですね。危ういところを支えてくれるのは、たぶん商品としてのレベルが大事だと思ったんです。例えば、Aスタジオという生きの良いところがあったとします。クオリティの高いものを作ったとしても、そういうところに限って商業的なフィルムのレベルを追ったことがないと思うんですね。アンサー・スタジオはディズニー作品をずっと作ってきた。ディズニーというのは商品としてのイメージ、商品というのはこうあるべきで(というものをしっかり持っていて)、この幅の中に絶対入っていなくてはいけない。低いクオリティでは困るし、訳の分からない作品を作って人気があってすごく政令的なものを作る、というのでもない。明確な職業的というか、大人の幅があるような、そんな感じがしたんです。そういうスタジオに自分の冒険的な演出方法を入れ込むと、ちょうど中和されていいかな、という(気がしました)。自分の持っているものとスタジオの持っている大人の部分が、うまく融合するといいフィルムができるんじゃないか、と思いました。

Q実際に制作が始まって絵もあがってきていますが、アンサー・スタジオの感触としてはどうですか?
高橋自分としては大成功だと思っています。あがってきた映像だけでいえば自分の持っているもの以上のものがあがってきたと思っています。

Qでは次にシリーズ構成の野崎さんのことについては?
高橋野崎さんとは、かれこれ10年来の知り合いです。一番最初の出会いは、僕が雑誌に小説の連載をしたときの担当編集だったんです。それからの付き合いです。僕の作る映像の主要な要素というのがあって、戦争、軍隊、武器など……。そういうフィルムが多いのですが、僕は軍隊のことは詳しくないのです。武器に対しても知識が乏しい。彼はそういうところが凄く強いんですよ。彼は専門的な兵器関係の雑誌で、外国からの史料を翻訳して記事にしてたりする仕事もしていたので、そういう彼の知識を前作でも、ずいぶん頼りにした部分はあります。前作でヒントを得まして、その付き合いがまだ繋がっていましたので、今作でもぜひ力を貸して欲しいと。その前にカメラマンものをやりたいということで、小説作りをしていた時も、彼はそのスタッフの一人でした。そういう経緯もあります。

Qカメラマンから戦場を描くということに関しては、野崎さんはどうおっしゃられているのですか?
高橋彼はジャーナリストという考え方と、ドキュメンタリーに対する思い入れがあるんですね。それをシナリオでもって試してみたい、とおっしゃっていましたね。その思いがそのままフィルムになっているか分かりませんが、彼の想いも頼りにしつつ、絵づくりしています。

Qキャラクターやメカニックデザインについては?
高橋キャラクターデザイン画については、色々な候補があってずいぶん決まらなかったのですが、アンサー・スタジオの方から「うちの絵描きもオーディションに参加してもいいか」と(打診がありまして)。アンサー・スタジオのスタッフに関しては、僕らの頭から抜けていたところがありまして……。ずっとディズニーを作っていたので、国内物だし、とんがってもいいと思っていたところもあるので、水と油みたいな感じだったんですね。お膳立てをすればちゃんと作ってくれるスタジオだという認識はあったのですが、そのスタジオの中に僕らが作ろうと思っている絵が描ける人がいる、というのが僕らの中で欠落していたんです。その他にも寺田君からの推薦もあって、アンサー・スタジオの竹内さんに参加して頂いたというのが経緯です。描いていただいた竹内さんの絵は、僕ははまっているなと思っています。メカデザインの宮武さんについては、僕の初監督作品『ゼロテスター』からの付き合いですから、植田プロデューサーから「宮武さんにデザインをやって欲しい」と頼んである、と。宮武さんは兵器関係も詳しいものですから。宮武さんとは打合せは綿密にしたのですが、そう何回もすることはなく自分たちのイメージをデザインしていただいた、という感じなんですね。

Q田中麗奈さんを始め声優のキャスティングについてお願いします。
高橋プロデューサー経験は一回だけあるのですが、なかなか面白い仕事で、まず企画を成立させるということは、いろんな所にいろんな根回しをして、成功しないかもしれないのに「絶対成功する」なんて嘘をついてでも成立させなければいけない。そういうところがあるんですね。で、物事が出発すると、今度はお金の管理をして、なおかつスケジュールの管理をして、でも実際には絵を描くわけでもなく指定するわけでもなく、一番おいしいところは現場に任しちゃう。そのプロデューサーがキャスティングには思い入れが深くて、どう見ても「俺がやりたいな」という顔をしているんです。それで植田プロデューサーに頑張って頂いた結果、田中麗奈さんということになりました。僕が携わったアニメーションの中では、非常に贅沢なキャスティングだと思います。僕は総監督だけど、赤城圭一に関してはわがままを言わせてもらいました。

Q今回『FLAG』というタイトルから“旗”にこだわっているようですが、題名を“旗”にした理由をお聞かせください。
高橋“旗”というものは人をまとめる力がありますよね。代表的なものは国旗です。国旗のもとで一つの国家があるということになります。野球にしても球団旗というのがありますし……。そうした「心をひとつにする」という意味合いもありますが、もう一つは「志を立てる」という意味合いがあります。アニメーションの中で一つの表現としての新しさとか、枠組みを少し崩すという志があるものですから、「志を立てる」「みんなで一緒につくる」ということが、『FLAG』という題名に込められています。もう一つは物語に込められていて、主人公が物語に入るときに決定的な写真を撮る。その写真が最初の企画の段階では、旗を撮るんじゃなくて、旗の向こうにあるものを撮るところが、一つの旗が遮ることによって、旗と被写体が一緒になり「祈り」と「志」が一緒になって、物語の入り口を開いた……ということがありますので、偶然だけど作品のテーマと現場の気持ちや自分の志を立てる……などと、聞きようによっては歯の根が浮くような言葉かもしれませんが、作品の中で一つになった、ということですね。

Q「旗の写った決定的な写真」ということで、硫黄島の星条旗(※2)を意識されたのかなと思ったのですが……
高橋写真集はずいぶん見ましたし、硫黄島の旗も見たんですが、あの旗とは違う意味合いがあると思っています。あちらは戦場においての攻める側、守る側、戦争においての一つの頂を示してる。僕らが作ろうと思った旗は、戦争を集結される力があるかどうか導ける力があるかどうか、旗を軍隊の到達点、というようなことでは考えてはいないんです。ただ、カメラマンものを作るにあたってはその辺の写真をずいぶん見ました。だけど意味合いは違うということです。

Q架空の国を舞台にした戦争物というと、中東が多かったと思いますが、今回、中央アジアを舞台にした理由というのは……
高橋実際に中東というと、媒体を選定するのは難しいなと思ったんです。現状で起こっていることを物語りにするのは、アニメーションの場合は避けた方がいいな、と思っています。アニメーションの場合は、なるべく作り物であったほうがいいと思ってますし、矛盾しますが「リアリティ」と「らしいな」ということ、それは作り物を前提にして「らしいな」ということが魅力的になるのであって、作り物じゃないものは「らしいな」とは言わないような気がするんです。少し視点をずらしてみた、ということですね。でもほんの少し、メルカトルの地図でいえば、少し目線をずらせば中東から中央アジアに行ってしまいますからね。

Qでは、特にチベット問題などを意識しているわけではないのですね?
高橋ええ。チベットに取材に行こうと思ったときにチベット問題で足止めというか、危険だな、と思ってやめたこともありましたし。でも今はそういう、きな臭い場所がない、そういう場所はないくらいですよね。直接的にはイラクは避けたということでしょうね。

Q冷戦が終わって、イラクとかソマリアなどで戦争の概念が変わったと言われますが、『FLAG』には影響を与えましたか?
高橋ライターには影響を与えてますね。野崎さんが作ったキャラクターとHAVICを軸として、シーダックという特殊部隊があります。その人たちは国連の中にいるんですが軍人なんですね。軍人で有る限り、戦争を避けるわけにはいかないのですが、軍人から見たときに、軍事行動が迅速に行われなかった為に、行われるべき時に政治的な躊躇があって、行われなかったことによって悲劇が拡大した……という想いの強い人たちがここに参加している。そういうキャラクター構成になっています。

Qぜひ若者に向けてのメッセージをお願いします。
高橋日本が60数年前に太平洋戦争で歴史的にはアメリカに負けて以来、有る方向に進んできたけど変わり目はなかったような気がするんですよ。アメリカ型の民主主義とアメリカ型の資本主義を受け入れて進んできた。数字的には細かいところは分かりませんが、たぶん世界第二の経済大国だと思うけど、そこまでの結果を出した。だけどバブルがはじけた。そのはじけたことをほぼ十数年で克服しようとしている。でも、この「今から数年前から数年後」というのは、戦後の60年じゃないターニングポイントになるんじゃないかなと思うのね。若者ということでいうと、戦後すぐの若者っていうのはそう悩みはないんです。僕らより10年世代が下だと学生運動がひとつのテーマだったし、あれはかなり建設的な健康な事件だったと思うんです。ところが、今の日本で起こっていることというのは、学生がある想いをもってちゃんと政治に関わっていこうというのじゃなくて、どっちにいっていいのかが、わかんなくなってしまった時代。資本主義が成熟してきたんで、成熟時のよく見えるところ、むちゃくちゃ金持ちが生まれるとこだと思うんです。いやな言葉で言うと、勝ち組と負け組がはっきりする。体型はみんな同じ。食べられる量や着るものだってそんなに変わらないはず。でも資本主義というものの中から非常に抽象的な価値が生まれてきて……それは貨幣価値だと思いますが、その貨幣価値で身につけられる富というのは、見えないほど膨大なものになって、一人の人間が占領できる、というのが資本主義。だけど一方では、人間の尊厳を維持できないほどの敗者も生まれてくる、というのが資本主義。戦後の日本はアメリカ型の資本主義を追ってきたけど見えなかったんですよね。僕らの時代はみんな、日本という国の発展に同調して生きてこられた。だけど、これからはそうじゃないだろうな、と。はっきりした負け組の若者が生まれてくるだろうなと、それが僕の若者に対する「心配」ですね。勝ち組はでてくるけど、それに倍して負け組が出てくる。その負け組の敗者復活戦というのは、今の体制のなかで行われるのかな、敗者復活戦に参加できない層というのが生まれてくるだろうなという心配があります。

Q今回の『FLAG』は勝ち組の若者に見せたいか、負け組の若者に見せたいか、あえて言うならどっちですか?
高橋どっちにも見てもらいたいですね。でも勝ち組は見ないかもしれませんね。意外と負け組の人が買ってくれたり……アニメーションって、そういうところがあるから。今の社会が持ってる危なさみたいなものを意識してないでしょう。40才、50才になったときに、あの豊かさは、お父さんお母さんが持ってたんだっていうようだったら怖いよね。

Q今回の白州冴子って、高橋監督にとって好みの女性なんでしょうか?
高橋いや、ぼくの願望は赤城圭一に入ってるんです。白州冴子の願望は寺田和男という監督が担っていますので……。僕の好みの女性だったら、そういう物言いは言わないよ、っていうのを監督は指示してたりするので、そこら辺は好みが分かれるかもしれませんね。白州冴子に関しては寺田監督に任せようと思っています。いろんな人がいろんな事を言ってキャラクターが決まるのは避けた方がいいと思う。キャラクターに関しては、これで良いんだ!と思う人がリードしていくのが良いと思う。作品に関しては、自分としては天然ではないために、こういう方法論で作るんだということを……自分だけでやるとかなり偏った、食べ物でいうと非常に喰いずらいものになると思います。ジュースで言えば原液みたいなものですから。原液を作るのは僕の役目で、それが非常に飲みやすいようにするのがそれぞれのスタッフの技術であったり、才能であったり、資質であったりすると思うんですね。先ほどの話に戻れば、白州冴子は監督が担ってくれるので、僕の好きな女性が出てくるのではなく、違う人のタイプの女性が出てくることによって、商品としては口当たりがよくなるんじゃないかと思います。そこは期待しています。

Q今のアニメーション業界について、考えられることはありますか?
高橋多少バブルだと思ってるんですよ。見てくれよりも中は空虚だということです。週に100本のアニメーションを作るのは異常だと思うんです。それを支えているのはなんだろう。それはお金がないと支えられませんから、どこかアニメーションや映像が儲かるよ、という思いの、映像にもアニメーションにも愛情もなければ知識もない……(人たちが投資しているのではないか)。……でも、お金というものは非情なものですから、儲かるときはいいけど儲からなくなったら簡単に引き上げられるよ、と。映像業界に流れてくる資本が引き上げられるとき、僕はバブルがはじけると思う。アニメ業界を知らない所が、宮崎駿さんの作品のような儲かってるアニメと、そうでないアニメを合わせて、アニメ業界として全体で数字を出してる。僕は作っているフィルムに無理をかけている気がしますね、作り手が。こんな凄いクオリティのモノをこんな時間で、こんなお金で仕上げちゃいけないんじゃないか、っていう想いがありますよね。特に若い人たちは必死になって作る。それは何か……タコが自分の足を食べているような気がするんで。じゃ「手を抜いて作ればいいの?」っていうとそうじゃない。お金のかけどころをみんなで考え直した方がいい、エネルギーの使いどころを考え直した方がいい、そういう気がしていますね。昔から比べると映像のクオリティがものすごく高くなってるんで、それに関しては誇るべきことだと思う。それに見合う内容のものはどのぐらいあるか、ということですよね。それを僕自身もスタッフも一緒に考え直したいなと思います。


※1:ゼロテスター
1973年から1974年にかけて全66話が放送された東北新社・創映社(現、サンライズ)製作のSFアニメーション。高橋良輔監督の初監督作品であり、演出には『機動戦士ガンダム』で知られる富野良幸(現由悠季)氏、安彦良和氏が参加していた。メカニックデザインには宮武氏の所属する「スタジオぬえ」の前身クリスタル・アート・スタジオ(正確には、その別名義であるジョン・デドワ)も加わっている。また脚本には高橋監督の代表作となった『装甲騎兵ボトムズ』の脚本も手がけられた五武冬史氏や吉川惣司氏も参加していた。

※2:硫黄島の星条旗
太平洋戦争末期の激戦地、硫黄島。1945年2月、米軍がこの硫黄島を占領しようと上陸開始。これを阻止するために、日本軍は陸軍1万5500人、海軍7500人を送り込み、1カ月以上もの間、米軍と激しい戦闘を繰り広げた。この戦いで摺鉢山に星条旗を立てた六人の兵士の姿を写した写真は「世界で最も美しい写真」といわれピュリツァー賞を受賞した。また、彼ら六人の兵士のその後の運命を描いたドキュメントの書籍タイトルでもあり、出版に際しては、その表紙にも使用されている。

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