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FLAG外伝 第1章 /野崎 透
3.特殊部隊(3)

 しかし、ここで思いがけず状況が変化する。過激派武装勢力の動向を監視していた現地国連職員から、拉致されたNGOスタッフが首都から連れ出されたという連絡が入ってきたのだ。
 過激派武装勢力が、自分達の軍事拠点がある北部国境地帯を目指しているのは明らかだった。恐らく首都での抗争に破れたのだろう。NGOスタッフは、北部に逃げても和平交渉のイニシャティヴを失わない為の保険に違い無い。
 ここに救出作戦は一気に困難な状況に置かれる事になった。まず大きな問題は時間であった。もし軍事拠点に逃げ込まれたら、救出はほとんど不可能になる。北部国境地帯まではおよそ400キロ。その間に補足する事が絶対の条件になってきたのである。
 さらに、移動中の相手を補足しなければならないという問題があった。もちろんただ攻撃するだけなら簡単だったが、しかし今回は拉致されているNGOスタッフを一切傷つける事無く救出しなければならないのである。その為には、車輌群を停止させた上で何らかの形で戦闘出来ない状態にする必要があった。だが、武装している相手に対して、しかも肝心のNGOスタッフがどの車輌に乗せられているか分からない状況下でその双方を実現するのは、不可能とは言わないまでも限り無くそれに近いほど困難だった。
 大至急、作戦計画の練り直しが行われた。しかし、悲観的な空気が国連軍の司令部を覆うのは如何ともし難い事だった。ただ、その中でもクリスは決して悲観していなかった。彼女には確信があった。ハーヴィックの機能と、それに、これまで数多くの訓練を積んできたシーダック隊の能力があれば必ず救出を成功させられると。
 もちろんそれを口に出す事は無かったが……。
 どちらにしても、最早選択肢は残されていなかった。

 国道を大きく迂回しながら先回りした2機のハーヴィックは、予定の会敵ポイントで停止すると、ガスタービンを停止させ、燃料電池のメイン・ジェネレーターによる動力モードに切り替えた。こうすれば発熱は最小限に抑えられ、簡単な熱線監視システムぐらいではほとんど発見が不可能になる。さらに2機は僅かな微高地まで前進して、国道からは見えない位置でアンブッシュ体勢をとった。
 2機のハーヴィックが神経質なくらいに身を隠そうとしているのは、如何にギリギリまで相手に発見されるのを防ぐかに作戦の成否の全てが掛かっているためだった。とにかく僅かでも時間的余裕を与えれば、人質全員が殺害されてしまうのは確実だった。それを防ぐ為にも、相手に全く反応する時間を与えない必要がある。わざわざ目標の車輌群から離れた場所に降下したのも、視界を遮る物のほとんど無い平原では、たとえどんなに超低空を飛行しようとその襲撃意図を隠蔽する事は出来ないからだった。ギリギリまで気付かれずに接近するには、唯一、地上を移動するしかなかったのである。
 今、荒れ地に身を伏せた2機の狩人は、息を殺して獲物が現れるのを待った。間も無く、走行する車列が視界に入ってくる。ハーヴィックは狩猟を開始した。獲物に気付かれない様に、目に見えない槍を使って——

 クリスと一柳が先ず行わなければならないのは、どの車輌にNGOスタッフが乗せられているかを特定する事だった。この場合、少なくとも分散乗車させられている可能性は排除された。過去の同様のケースを見ても、武装勢力側が人質を分散させた事は見られないからである。そうなると、探さねばならないのは大勢の人間ですし詰めになっている車輌という事になる。
 ここでクリスと一柳がインデックスとして選んだのは熱線の増加だった。大勢が乗る車輌は人間が発する体熱によって、他の車輌よりも熱線放射量が多くなっているはずである。もしその増大分を検出出来れば、それが目的の車輌という事になる。
 しかし、体熱による熱線の増加量は、膨大なエンジンの発熱や太陽の放射熱に較べると極めて微量なものでしかなく、検出は極めて困難だった。それでも、方法が無い訳ではなかった。熱源ごとにそれぞれスペクトル分布が異なる事を利用して、体熱に相当するエネルギーの熱線だけを取り出すのである。

 倍率を最大にしたディスプレイの上に近付いて来る車輌の一輛を固定したクリスは、レティクルを車体の中心に重ね、熱分布を探った。エンジン部と天井が特に発熱が大きい事を示す強い赤色に変る。クリスはフィルター処理で他の場所の発熱を調べた。運転席と助手席以外はほとんど反応が表れない。
 クリスは一応データを保存すると、次の車輌を調べ始めた。
 国道を近付いて来る車輌群は民生の乗用車とバン、それに小型トラックで構成されていた。軍用車が無いのが如何にも俄造りの武装組織を思わせる。サイトに神経を打ち付けたまま、ふとクリスは思った——恐らく、ほとんどは日本製なのだろうな。
 あまり民生車には興味が無いが、この地域で日本車が絶大な人気を集めている事は新聞の記事等を読んで知っていた。何より、故障が少なく、何時でも確実に動く所が人気の秘密らしい。
 確かにクリスも日本の民生品に対しては同じようなイメージを持っていた。ただし、どの製品も確実にある一定の水準を有している反面、際立った個性に掛けているのも事実だった。決して不満を抱かせない、しかし、愛すべき欠陥も無い優等生……それが日本製品に対する偽らざる印象だった。
 ふと、背後の僚機へと意識が飛ぶ。シーダック唯一の日本人である一柳は、少なくともクリスが見る限りはそういった日本的特徴とは全く無縁の人間だった。平均的なところはほとんど無い。特殊部隊への編入試験でも、語学は断トツの最低点だった。それでも何とかギリギリで滑り込めたのは、ハーヴィックの操縦に最も必要とされる瞬時の判断力と鋭敏な反射神経で突出した能力を見せたからだった。
 神経質で協調性もほとんどゼロ。それでも自分の任務に対しては決して努力を惜しまない。一言で表現するなら、不器用な人間……。
 クリスは心の片隅で微笑んだ。もちろんその間も、クリスの指は僅かな停滞すら見せず、サイトを次の車輌へと向けていた。
 この時、一柳から通信が入る。
「前方から6輌目、熱線反応」
 いつもの様に一柳は簡素で最低限の情報しか語らない。しかし、クリスにはそれで十分だった。
「至急スペクトル・パターンの解析を」
 同じ様に簡潔な指示を送ると、クリスは一柳が示した6輌目にサイトを向けた。窓を簡単な鉄板で覆ったバンがモニターに浮かぶ。クリスが熱線を探査している間に、一柳機から車内の温度分布を表示した画像が転送されて来る。そこには一塊になった高温部があった。温度は人間の体温を示している。続いて、クリスのコンピューターの解析結果が表示される。それは一柳機から送られてきたものと、ほとんど同じパターンを示していた。
 間違い無い、あの車輌だ!
「ハーカス2、予定通り状況を開始する。20秒後に二足歩行モードへ、攻撃体勢に移行する」
 クリスは攻撃体勢への移行を指示した。

 突然現れた2体の巨人に、武装勢力の兵士達は蜃気楼の幻想を見た。だが、それは決して幻想等ではなかった。
 たちまち車列の中から二本の煙が立ち上る。それを見た時、兵士達は初めて自分達が奇襲を受けた事を知った。
 しかし、誰が襲って来たのだ? 敵はどこにいるのだ?
 兵士達は恐怖の眼差しを巨人に向けた。そこには火を吹く槍を振り翳した悪魔の姿があった……。



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