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FLAG予備知識集 / 桝谷直俊
■「現代における従軍取材」

皆さん、暑い中いかがお過ごしですか? コミケに行く人は頑張って下さい(笑)。さて今回は、「現代における従軍取材」です。

アメリカ軍は、ヴェトナム戦争における宣伝戦で「大敗北」を喫し、その一方で「マスコミは、事実を公平に扱わない」という不信感を募らせました。その結果、アメリカ軍は次の戦争では、従軍報道のあり方を全面的に見直すことになりました。それが1990〜91年の湾岸戦争です。
湾岸戦争においてはアメリカを主体とした連合軍(多国籍軍)は、マスコミに対してプール(代表)取材しか認めませんでした。つまり、マスコミの中から選ばれた代表取材者が、軍の案内で事前に軍が決めた場所を取材させるというものです。さらにその取材内容に検閲が入ったものが、マスコミ各社に配信されるという形になりました。さらにアメリカ軍は、公式発表において精密誘導爆撃の(ミサイルや爆弾が着弾するまでの)映像を多く発表し、「攻撃は軍事目標に対し正確に行われており、民間人の犠牲は最小限で済んでいる」とアピールしました。
その結果湾岸戦争では、アメリカ軍はほぼ完全に情報をコントロールすることに成功し、問題はほとんど発生しませんでした。ですがこれは情報統制のやり過ぎであるという批判も大きく、また精密爆撃中の映像だけを映し、爆弾が爆発したあとの破壊の状況や死体を映さないことから「(犠牲者が存在しない)TVゲームのようだ」などという意見も出ました。

この批判をかわすため、アメリカ軍は2003年のイラク戦争では、エンベッド(埋め込み)取材というものを導入しました(『FLAG』における白州冴子もこの取材方式です)。これは、取材規則へ同意し署名した記者を、空母に乗せたり地上部隊に同行させたりして、記者は軍人と寝食を共にしながら取材をするというものです。そして、その記者に(許可された)情報を与え、規則内で自由に取材させるという形です。
もちろんアメリカ軍はヴェトナム戦争の轍を踏まないために、このエンベッド取材に詳細な規則を設けました。例えば、部隊の正確な位置や数、作戦開始の時間などは作戦情報なので、記者に与えられることはありませんし報道することも禁じられます。また、部隊員に対するインタビューは、すべて匿名ではなく実名を明かすように要求しました。こうして、匿名の隊員が軍事情報を漏らす危険を防ぎます(実名報道であれば、機密を漏らすとすぐ処罰されるので、危険は少ない)。また、アメリカ軍の死傷者に関する情報を扱うときにもさまざまな制限が課せられました。これは、死傷者の家族に、軍から公式の通知が行く前にマスコミによって情報が届いてしまうのを防ぐためという理由もあります。さらに当然のこととして、例えば夜間の戦闘中に記者がフラッシュをばしばし焚いていたら的になりますから、安全上の制限もあります。ですが、軍は「危険」という理由でマスコミを排除することは可能な限り行わないという方針でした。 こうしてアメリカ軍は、マスコミを一定範囲内に留めておいて、その中で(ほぼ)自由に取材させることにより、マスコミの不満をそらしつつ情報を管理するという方式を使用するようにしたのです。またこれは、軍とマスコミを「一蓮托生」にすることによって、マスコミを自軍の味方につけさせるという意図もあります。ですが、これでも依然としてマスコミ側からは、「報道統制である」「取材源秘匿ができないため、内部告発が期待できない」という批判があります。

軍の立場からすると、まず恐れなければならないのは自軍の軍事的な情報が、マスコミを通して敵軍に流れてしまうことです。その結果味方の被害が増大してはならない、したがって情報統制は絶対に必要です。
また、例えば自軍の戦況が不利などという事実があったとしても、それがマスコミを通して一般の人々に流れてしまうと、あっという間に事実が誇張されてしまう危険があります。そのため不利な情報は、なるべく流したがりません。ですが、それが行きすぎると「事実の隠蔽」に繋がってしまいます。
一方のマスコミは、常に報道の自由、知る権利を主張しています。ですが、マスコミが報道したがるものだけに事実があるのではありません。また、マスコミが公正な報道を常に行うわけでもありません。しかし、自由主義国家であれば報道の自由は絶対に必要です。
そのため、今後もマスコミと軍のせめぎ合いは続いていくことになるでしょう。


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